このページの要点
- 返却確認書には、返却日、場所、状態、付属品・鍵、未精算の費用、以後の請求の有無を書く。返還から1年の請求期限の起点になる(民法600条1項)。
- 催促は、物と期限を特定し、日付が残る形で行う。期限のない債務は履行の請求を受けた時から遅滞になる(民法412条3項)。
- 自分の物でも、他人が占有しているものは、窃盗などの罪では他人の財物とみなされる(刑法242条)。実力で取り戻さない。
- 少額訴訟は60万円以下の金銭の支払の請求、支払督促は金銭その他の代替物の給付(民事訴訟法368条・382条)。物の返還には当たらず、返せないときは415条2項の損害賠償の問題になる。
結論:返却は「渡して終わり」にせず、日付・状態・付属品・精算を一枚に残す。返してくれないときは、記録を積み、実力で取り戻さない
貸し借りの最後の場面は、返却です。ここで状態を確認せずに受け取ると、あとで傷や不足が見つかっても、「いつ、誰が付けたのか」を示せません。反対に、返却の日に双方で確認して記録を残しておけば、その後の請求が必要かどうか、いつまでに動くかが、はっきりします。
返してくれない相手への対応でも、考え方は同じです。感情的になって相手の家から持ち出す、鍵を替えて荷物を出さない、といった動きは、貸主の側が不利な立場に立つことがあります。まず記録を積み、催促の経過を残し、そのうえで法が用意している手続のどれが物の返還に使えるのかを知る。この順序が、遠回りに見えて、結果として整理しやすい道筋です。
このページは、返却の確認と、返してくれないときの考え方に絞り、民法・刑法・民事訴訟法などの条文にもとづいて一般的に整理します。特定の紛争の見通しの判断や、手続の代理は扱いません。期間と解除の条文は貸す期間と「返して」のとき、傷や汚れの費用と損害は費用と、壊れた・汚れたときで扱っています。
結論を先に並べます。
- 返却確認書には、返却日、返却場所、物の状態、付属品・鍵、未精算の費用、以後の請求の有無を書く。署名またはメッセージでの確認で足りる場合も多い。
- 受け取った後に傷や不足に気づいても、返却確認書に「問題なし」とあれば、請求は難しくなる。確認は、その場で、貸した日の記録と見比べて行う。
- 催促は、日付・内容・相手の返事が残る形で行う。期限を定めない債務は、履行の請求を受けた時から遅滞になる(民法412条3項)。
- 他人が占有している物を力ずくで取り戻すと、自分の物であっても、刑法上は他人の財物とみなされ得る(刑法242条)。実力行使の前に、法の手続を知る。
- 少額訴訟や支払督促は金銭の支払いを求める手続で、特定の物の返還には使えない(民事訴訟法368条1項、382条)。物の返還を求める手続は別にある。
- 返せない(壊れた・売った・なくなった)ときは、返還に代わる損害賠償の問題になり、請求できる期限にも注意が要る(民法415条2項、600条)。
返却確認書に書く項目:日付・状態・付属品・精算・以後の請求
返却確認書は、特別な様式が必要な書類ではありません。A4一枚、あるいは双方が確認したことを残すメッセージでも、役割は果たせます。大切なのは、貸した日に残した記録(貸出目録、写真)と、返却の日の状態を、同じ観点で見比べられる書き方にすることです。
返却確認書に入れる項目
- 返却した日付、場所、受け取った人、渡した人
- 返却した物の特定(品名、型番、シリアル、車なら登録の表示)
- 物の状態(外観、動作、傷の有無と場所。貸した日の写真と比べた結果)
- 付属品・鍵・書類の個数と有無
- 費用の精算(燃料、消耗品、修理の立替え、光熱費)の有無と金額
- 壊れた・汚れた部分があるときは、その内容と、扱い(直す、金額で精算する、問題にしない)
- 以後に請求することがあるかどうか(ないとする場合は、その範囲)
- 双方の署名、またはメッセージでの確認の文面
書き方の例(一般的な例) 返却確認書の書き方
状態の記載
理由何を確認したのかが書いてあると、後から追加の傷を主張されたときに、確認の範囲が分かる
傷があった場合
理由傷を書かずに受け取ると、受け取りを承諾したとみなされる場面がある
以後の請求
理由請求の有無がはっきりすると、後日の食い違いが減る。範囲を狭く書くと、記載のない傷は請求できなくなる点に注意
精算
理由何を精算したのかが分からないと、別の費用が残っていたのかどうかで揉める
受領を承諾する意味。返却のとき、「問題なし」と確認して受け取ると、その後に傷や不足を主張するのは難しくなります。逆に、傷や不足に気づいたのに黙って受け取ると、その時点の状態を認めたと受け取られることがあります。傷があるときは、受け取る前に、その場で言葉と記録で残します。確認に時間がかかるなら、受け取りを保留して日を改める選択もあります。
1年の期限との関係。契約の本旨に反する使用による損害の賠償と、借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければなりません(民法600条1項)。返却日を確認書に書いておけば、この期限の起点が明確になります。期限の詳しい読み方は費用と、壊れた・汚れたときに整理しています。
確認の問いと理由返却の日に、その場で確認する問い
貸した日の写真と見比べて、外観に違いはないか。
傷や汚れの有無は、貸した日の記録がなければ比べられない。写真を手元に置いて確認する。
付属品・鍵・書類は、目録のとおりそろっているか。
不足は返却のその場で指摘しないと、後から「渡した」「受け取っていない」の争いになる。
動作する物は、実際に動かして確認したか。
外観だけでは分からない不具合がある。電源を入れる、音を出す、走らせるなど、その場でできる範囲で確認する。
費用の精算は、全部済んだか。
燃料、消耗品、修理の立替えなど、残っている精算を確認書に書く。
確認書に書かなかった点について、以後は請求しないことになるのか。
以後の請求の範囲は、確認書の書き方で決まる。範囲を意識して書く。
受け取った後に不具合に気づいたとき。返却の日には問題がなかったのに、後日、動作に不具合が出ることがあります。借主の使い方が原因か、もともとの劣化かは、すぐには判断できません。気づいた日、症状、使った状況を記録し、早めに相手に伝えます。返却日から1年以内という期限(民法600条1項)に注意し、直す、金額で精算する、問題にしないのどれにするかを、話し合いで決めます。返却確認書に「問題なし」と書いてあれば、請求は難しくなることがあるため、確認書を書く時点で、動作確認の範囲を明記しておくことが大切です。
返却の場所と受け渡し:どこで、いつ、どう渡すか
返却では、場所と時間の食い違いも、揉める原因になります。「取りに来てほしい」と「持っていく」の行き違いは、書面に書かれていなければ、条文で補うことになります。民法484条1項は、弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所においてしなければならないと定めています。つまり、書面がないときは、貸した時に物があった場所が基準になり得ます。
返却の日の、一般的な流れ
- 事前返却の日時と場所をメッセージで確認する。遠方の場合は、受け渡しの方法(手渡し、宅配)を決める。宅配なら、梱包の方法と保険、到着の確認も決める。
- 受け渡しの前貸した日の写真、目録、書面を手元に用意する。鍵や付属品を、目録と見比べる準備をする。
- 受け渡しの場で外観、動作、付属品、鍵の個数を、その場で確認する。傷や不足があれば、写真に撮り、口頭でも伝える。
- 確認書を作る確認書に状態、精算、以後の請求の範囲を書き、双方が署名するか、メッセージで確認する。
- 受け取った後数日して動作の不具合などに気づいたら、気づいた日と内容を記録し、早めに相手に伝える。返却日から1年の期限(民法600条)に注意する。
宅配で返却する場合は、受取人側で開封したときの状態の記録が重要です。開封の様子を写真や動画に残しておくと、輸送中の破損と借主の使い方による傷の切り分けに役立ちます。輸送中の破損の責任をどちらが負うかを、貸すときに決めておくと、トラブルが減ります。
返してくれないとき:催促の記録を積む
返す約束の日を過ぎても、返ってこない。連絡しても返事がない。こうした場面での最初の対応は、「何を、いつまでに、どうして返してほしいのか」を、相手に伝わる形で、記録に残すことです。感情的な表現や、脅すような文言は避けます。
書き方の例(一般的な例) 催促のメッセージの書き方
目的
理由何を返してほしいのかが特定されていないと、争いのときに請求の内容が不明確になる
理由
理由期間や目的の定めが返還の根拠になる(民法597条、598条)
期限
理由期限を示すと、その後の経過を記録として説明しやすい
方法
理由口頭のやり取りだけでは、後で言った言わないになる
相手の返事
理由相手の言い分も記録しておくと、返せない事情が分かる
民法412条3項は、債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負うと定めています。期限が定まっていない貸し借りでは、催促のメッセージが、遅滞の責任の起点を示す意味も持ちます。なお、使用貸借の返還請求の根拠は、借主が契約の終了時に返還することを約束していること(民法593条)と、期間の満了や目的の終了、解除(民法597条、598条)に求められます。期間と終了の判断は貸す期間と「返して」のときを参照してください。
通知の形式として内容証明郵便が使われることがありますが、形式の解説は別のガイドで扱います。ここでは、通知の内容と日付が後から確認できる形で残ることが大切、という点にとどめます。
力ずくで取り戻す前に考えること
貸した物が自分の物であっても、借主の家や車の中にあるものを、無断で持ち出すことには問題があります。刑法242条は、自己の財物であっても、他人が占有するものであるときは、窃盗などの罪については他人の財物とみなすと定めています。刑法235条は、他人の財物を窃取した者を窃盗の罪とし、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処すると定めています。
条文刑法
- 242条自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、窃盗などの罪については、他人の財物とみなす
- 235条他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する
- 252条自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の拘禁刑に処する
条文があることを紹介するもので、特定の行為が罪に当たるかどうかの判断ではありません。
ここで押さえておきたいのは、貸主が所有者であることと、借主が占有していることは別だという点です。借主が約束を守っていなくても、法に定める手続を経ずに実力で回復する行為は、貸主の側に問題を生じさせるおそれがあります。たとえば、次のような動きは、避けたほうが整理がつきやすい場面です。
実力で取り戻す前に、立ち止まるもの
- 借主が不在の間に、借主の家や車、倉庫から物を持ち出す
- 合鍵や予備の鍵を使って、借主の部屋や車に入る
- 借主の家の鍵を替える、荷物を外へ出す、電気や水道を止める
- 返さない代わりに、借主の別の持ち物を預かる、担保として取る
- 返してほしいと伝えるために、勤務先や家族、知人へ連絡して圧力をかける
反対に、記録を積む、期限を示して通知する、話し合いの場を設ける、第三者を交えて返却の日を決める、といった動きは、後の手続でも説明の材料になります。
裁判所の手続の使い分け:物の返還と、金銭の請求は別
返してくれない場合の手続を紹介します。ここでは制度の違いを紹介するにとどめ、どの手続を選ぶかの判断や、手続の代理は扱いません。
物の返還と金銭の請求で、使える手続の違い
| 請求の内容 | 制度 | 条文から読めること |
|---|---|---|
| 特定の物を返してほしい(楽器、機材、車など) | 通常の訴訟など | 少額訴訟は「金銭の支払の請求」が対象(民事訴訟法368条1項)。支払督促は「金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付」が対象(同法382条)。特定の物の返還は、これらに当たらない |
| 壊された・なくなった物の代金や修理代を請求したい | 少額訴訟、支払督促、通常の訴訟 | 金銭の支払を求めるなら、訴額が60万円以下で少額訴訟(同法368条1項)、金銭の一定額の給付で支払督促(同法382条)が選べる場合がある |
| 話し合いでまとめたい | 民事調停 | 民事に関する紛争について、当事者は裁判所に調停の申立てができる(民事調停法2条) |
少額訴訟は、簡易裁判所で、訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて求められる手続で、同一の簡易裁判所で同じ年に求められる回数には制限があります(民事訴訟法368条1項)。支払督促は、裁判所書記官が、債権者の申立てにより、金銭その他の代替物の一定の数量の給付を目的とする請求について発する手続です(同法382条)。この二つは、金銭の請求に向いた制度で、「あの楽器を返して」という特定の物の返還には、そのままでは使えません。
物の返還を求める場合は、通常の訴訟の手続になります。どこの裁判所に何を申し立てるか、費用や期間はどのくらいかは、事案によって異なり、ここで判断できるものではありません。このガイドは、手続の存在と、金銭と物の違いを知るための整理です。代理や見通しの判断は扱いません。
返還を求める根拠と、返せないとき:滅失・売却・時効
貸主が返還を求める根拠は、まず契約です。使用貸借は、借主が受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって成立します(民法593条)。期間の満了、目的の終了、解除によって契約が終わったのに返さないなら、契約にもとづいて返還を求めることになります。加えて、貸主が所有者であることにもとづいて、返還を求める考え方もあります。
借主が物を返せない(壊した・失った・売った)場合は、返還に代わる損害賠償の問題になります。債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求できます。ただし、債務者の責めに帰することができない事由によるときは、この限りではありません(民法415条1項)。債務の履行が不能であるときなどは、債務の履行に代わる損害賠償の請求もできます(同条2項)。損害賠償の範囲は、通常生ずべき損害が基本です(民法416条1項)。借主は、特定物の引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって保存する義務を負います(民法400条)。
返ってこないときの、請求の根拠の分かれ道
貸した物は、まだ存在して、借主が持っているか。
- 物は存在し、借主が持っている返還を求める契約にもとづく返還(民法593条、597条、598条)。催促を記録し、物の返還を求める手続は通常の訴訟。
- 物は壊れた・汚れた損害賠償・費用の問題契約の本旨に反する使用による損害の賠償は、返還を受けた時から1年以内(民法600条1項)。修理して返す、金額で精算するなど、当事者の合意で解決する方法もある。
- 物はなくなった・売られた・不能になった返還に代わる損害賠償債務の履行が不能のとき、履行に代わる損害賠償を請求できる(民法415条2項)。売られた場合の取り戻しは売却と所有権を参照。
時効。債権は、債権者が権利を行使できることを知った時から5年間、または権利を行使できる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法166条1項)。使用貸借の返還請求権は債権ですので、長年放置するとこの期間の問題が出てきます。一方、民法600条の1年は、契約の本旨に反する使用による損害の賠償と借主の費用の償還についての特別の期間で、これとは別に働きます。どちらの期限が問題になっているのかを、請求の内容ごとに分けて考えます。
起きがちなこと:確認なしの受け取り、記録なしの催促、実力での回収
返却と催促で起きがちなこと
- 返却の日に何も確認せず受け取り、後日、傷や不足に気づいたが、いつ付いたのか示せない
- 返却確認書に「問題なし」と書いたため、後から別の不具合を主張しにくくなる
- 催促を電話だけで済ませ、言った言わないになる
- 期限を示さずに「早く返して」とだけ伝え、請求の内容と時期が曖昧になる
- 返してくれない相手の物を持ち出す、鍵を替えるなど、実力で解決しようとして、かえって自分が問題を抱える
- 少額訴訟や支払督促で物を返してもらえると思っていた(金銭の請求にしか使えない)
- 返却日を記録していなかったため、民法600条の1年の起点が分からなくなる
返却の確認と催促の記録は、貸すときの書面とつながっています。何を、どんな状態で、いつまで貸したのかが書かれていなければ、返却の確認も、催促も、根拠が弱くなります。貸すときに何を書くかは使用貸借契約書の書き方に、揉めてしまった後の最初の整理は個人間の貸し借りでトラブルになったとき・よくある質問にまとめています。預かった物や車の返還に関わる論点は預かる・借りる・貸すの違いも参考になります。
よくあるご質問
返却確認書は、必ず書面で作らないといけませんか。
決まった形式はありません。双方が状態を確認したことが後から分かる形であれば、署名のある書面でも、メッセージでのやり取りでも役割は果たせます。ただし、返却日、状態、付属品、精算、以後の請求の有無が読み取れるようにしておくことが大切です。
返却のとき「問題なし」と言って受け取りました。後から傷に気づいたら請求できませんか。
確認の内容や、傷がいつ付いたと示せるかによって変わります。「問題なし」と確認して受け取った場合、その後の請求は難しくなることがあります。契約の本旨に反する使用による損害の賠償は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求する必要があります(民法600条1項)。気づいたら、日付と内容を記録して、早めに相手に伝えます。
貸した物を返してくれない相手の家から、自分の物を取り戻してもよいですか。
自己の財物であっても、他人が占有するものは、窃盗などの罪については他人の財物とみなされます(刑法242条)。実力で取り戻す行為は、貸主の側に問題が生じるおそれがあります。まず催促の経過を記録し、法の手続を知ったうえで動くほうが、整理がつきやすい場面です。
少額訴訟で、貸した楽器を返してもらうことはできますか。
少額訴訟は、訴訟の目的の価額が60万円以下の「金銭の支払の請求」を目的とする訴えについて求められる手続です(民事訴訟法368条1項)。特定の物の返還は金銭の支払の請求ではないため、少額訴訟の対象にはなりません。支払督促も、金銭その他の代替物の一定の数量の給付を目的とする請求が対象です(同法382条)。物の返還を求める手続は、通常の訴訟などになります。
返してもらう期限を決めていなかった場合、いつから遅れたことになりますか。
債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負います(民法412条3項)。催促のメッセージで、返してほしい物と期限を示しておくと、その後の経過を説明しやすくなります。期間も目的も決めていない使用貸借なら、貸主はいつでも解除できます(民法598条2項)。
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