貸し借りの費用と、壊れた・汚れたとき:必要費・原状回復・請求は返還から1年

貸した物が壊れて返ってきた、借りた物が故障した。金額よりも「そこまで請求するのか」という行き違いがこじれのもとです。民法の短い条文を知ると、書面に何を決めるべきかが見えてきます。

トップページ › 貸し借りの費用と、壊れた・汚れたとき:必要費・原状回復・請求は返還から1年
返ってきた物に傷がある。貸す前からあったのか、借りている間につけたのか、写真がなければ決められません。

このページの要点

  • 借主は通常の必要費を負担する(民法595条1項)。それ以外の費用は、占有者の費用償還を定めた民法196条の枠で扱う(同条2項)。
  • 借りた後に附属させた物は借主が取り外し、借りた後に生じた損傷は借主の責めに帰さない場合を除き原状に復する(民法599条)。
  • 用法違反による損害賠償と借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求する(民法600条1項)。
  • 貸主は、貸す物を特定した時の状態で引き渡す約束をしたものと推定される(民法596条が準用する551条1項)。

結論:通常の維持費は借主、それ以外は「償還」の問題、傷の請求は返還から1年以内

貸した物が壊れて返ってきた。借りた物が故障して修理に出した。貸した部屋に壁の汚れや穴が残っていた。身近な人との貸し借りでは、金額そのものよりも、「そこまで請求するのか」「そんな話は聞いていない」という感情の行き違いがこじれのもとになります。民法の使用貸借の規定には、費用の負担、物の傷、請求できる期間について、短いながら要点を押さえた条文があります。条文を知っておけば、書面で何を決めておくべきかが見えてきます。このページの要点は、次のとおりです。

  • 借主は、借りた物の通常の必要費を負担する(民法595条1項)。通常の必要費以外の費用は、占有者による費用の償還請求を定めた民法196条に従って扱う(民法595条2項)。
  • 借主は、契約や物の性質によって定まった用法に従って使わなければならず(民法594条1項)、返すまでの間、善良な管理者の注意で保存しなければならない(民法400条)。
  • 借りた後に附属させた物は、使用貸借が終わったとき、借主が取り外す義務を負う。ただし、分離できない物や、分離に過分の費用がかかる物は除く(民法599条1項)。借りた後に生じた損傷は、借主の責めに帰することができない事由によるものを除き、原状に復する義務を負う(同条3項)。
  • 契約の本旨に反する使用・収益によって生じた損害の賠償と、借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない(民法600条1項)。
  • 貸主は、貸す物を、貸すものとして特定した時の状態で引き渡す約束をしたものと推定される(民法596条が準用する民法551条1項)。無償で貸すことから、貸主の責任は、賃貸借より軽く組み立てられている。

無償か有償かの境目は「無料で貸す」の境目で、貸主が負担する修繕の義務のない使用貸借と、賃貸借との違いは個人間の貸し借りの全体像でも整理しています。家賃を取る賃貸借では、貸主に修繕の義務があります(民法606条1項)。使用貸借には、これに当たる規定はなく、壊れたときの対応は、契約でどう決めたかが出発点になります。

条文民法

  • 595条借主は通常の必要費を負担する。それ以外の費用は、占有者による費用の償還を定めた196条に従う。
  • 599条附属させた物は借主が取り外す。借りた後に生じた損傷は、借主の責めに帰することができない場合を除き、原状に復する。
  • 600条契約の本旨に反する使用・収益による損害賠償と、借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求する。この間、損害賠償請求権の時効は完成しない。
  • 400条特定物を引き渡すまで、債務者は善良な管理者の注意で保存する。

条文は趣旨を要約したものです。金額や期間を争う場面では、原文で確認してください。

費用の負担:通常の必要費は借主、それ以外はどう扱うか

民法595条1項は、借主は借用物の通常の必要費を負担する、と定めています。必要費とは、物の保存・維持に必要な費用のことです。そのうち、普通に使っていれば通常かかる費用(小さな修理、消耗品の交換、日常の手入れなど)が「通常の必要費」です。貸主が無償で貸している以上、日常の維持費は借りて使う側が持つ、という考え方がここにあります。

ところが、通常の必要費にあたる範囲がどこまでかは、物の種類や使い方によって違ってきます。固定資産税などの公租公課や、建物の管理費、保険料といった「持ち主に請求が来る費用」を、借主が実費として払う形にしたとき、それが通常の必要費の範囲の話なのか、それとも賃料のように見られるのかは、無償の境目のページで掘り下げています。このページでは、物が壊れたときの修理や、価値を高める工事の費用に絞ります。

通常の必要費以外の費用については、民法595条2項が、民法583条2項を準用しています。同項は、買戻しの場面で、買主や転得者が不動産について費用を支出したときは、売主が民法196条の規定に従ってその償還をしなければならない、と定めています。つまり、使用貸借では、通常の必要費以外の費用は、占有者(借主)が占有物を返還するときの費用の償還請求(民法196条)と同じ枠で処理されることになります。民法196条は、次のように分けています。

費用の種類ごとの扱い(民法595条・196条)

費用の種類基本の扱い書面に書いておきたいこと
通常の必要費(日常の維持、小さな修理、消耗品の交換)借主が負担する(民法595条1項)。範囲の目安、領収書の保存、貸主への事後報告の要否。
通常を超える必要費(大きな故障、災害後の復旧など、物の保存に必要な費用)借主が支出したときは、返還のとき貸主に償還を求め得る(民法595条2項、196条1項)。借主が勝手に直さず、先に貸主に連絡する。見積り、上限額、緊急時の扱い。
有益費(物の価値を高めるための費用)価格の増加が現存する場合に限り、貸主の選択で、支出した金額か増加額を償還する(民法196条2項)。事前の承諾、工事の内容、返すときに残すか撤去するか、費用を精算するか。
附属させた物の取り外しの費用借主が、取り外す義務を負う(民法599条1項)。取り外す範囲、取り外した跡の補修、費用の負担者。

表のとおり、通常を超える修理や、価値を高める工事は、償還の問題になります。ただし、償還を請求するには、貸主に費用を負担させる合意や、必要性についての説明が、後から問題になります。借主が、貸主の知らないうちに大きな工事を始めて、「返すときに代金を払ってほしい」と言い出す場面は、典型的な行き違いです。民法は、有益費の償還を、価格の増加が現存する場合に限り、貸主の選択に従って、支出した金額か増加額のどちらかを償還させる、としています。借主に有利に見える一方、貸主の側から見れば、借主が好き勝手に支出した費用を一方的に請求されるおそれがあります。そこで、書面に「工事や高額の修理は、事前に書面で貸主の承諾を得る。承諾のない工事の費用は借主が負担し、貸主に償還を求めない」と書き、修理の金額に上限を設けておく、といった書き方がよく見られます。

貸主側にも、押さえておきたい点があります。使用貸借の貸主は、賃貸借の賃貸人のように、貸した物の使用・収益に必要な修繕をする義務を負うとは、民法に書かれていません。「雨漏りがするから直してほしい」と借主に頼まれても、貸主が当然に直さなければならないとは言えない、ということです。これでは借主が困るので、書面に、貸主が直すもの・借主が直すもの、費用の持ち方、緊急時の連絡を、書き分けておくことが重要になります。

借りた物を大切に使う義務:どこまで求められ、責任はどこから生じるか

借主は、契約や物の性質によって定まった用法に従って使い、収益しなければなりません(民法594条1項)。この用法に従った使用であれば、使っているうちに生じた傷や汚れが、ただちに責任の理由になるわけではありません。また、借主は貸主の承諾を得なければ、第三者に使わせることができません(同条2項)。これらに違反した使い方で貸主に損害が生じれば、貸主は契約を解除できます(同条3項)。

返すまでの間の保存については、民法400条が、特定物を引き渡す債務の債務者は、引渡しまで、契約その他の債権の発生原因と取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意で、その物を保存しなければならない、と定めています。借主は、借りた物を返す債務を負っているので、返すまでの間、この注意が求められます。無償で借りていても、注意の水準が下がるわけではありません。たとえば、預かる側が無報酬のときに「自分の財産に対するのと同一の注意」でよい寄託(民法659条)とは違う考え方です(寄託との違いは預かる・借りる・貸すの違いで扱います)。

借主がこの注意を怠って物を壊したときは、債務不履行として損害賠償を求められ得ます(民法415条1項)。ただし、不履行が、契約その他の債務の発生原因と取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、責任を負いません(同項ただし書)。借主が通常の注意を払っていたのに起きた自然災害や、第三者の不法行為による損害などは、この免責が問題になる場面です。

確認の問いと理由壊れた・汚れたと分かったときの、整理の問い

  1. いつ、どの状態で貸したか。

    貸すときの写真、目録、メーターの数値などで、傷が貸す前からあったのか、貸している間に生じたのかを分ける。

  2. どんな使い方をしていて壊れたのか。

    約束した用法や目的に沿った使い方か、禁止した使い方か。用法を外れた使い方なら、民法594条3項の解除も視野に入る。

  3. 借主の注意を怠った事情があるか。

    通常の注意を払っていたのに起きた災害や、第三者による損害なら、民法415条1項ただし書の免責が問題になり得る。

  4. 損害の額はいくらか。

    修理費の見積り、物の購入時の金額、使用年数。壊れた物の価値を超える修理費を、当然に請求できるとは限らない。民法416条1項は、通常生ずべき損害を賠償の目的としている。

  5. 貸主にも、損害を広げた事情があるか。

    貸主が不具合を知っていて告げなかった、連絡を受けても放置したなど。債務不履行では、債権者に過失があったときは、裁判所がこれを考慮する(民法418条)。

貸主が負う責任:貸した物の不具合で借主がケガをしたら

貸主の側にも、責任の問題があります。民法596条は、贈与者の引渡義務等を定めた民法551条を、使用貸借に準用しています。551条1項によれば、贈与者は、贈与の目的である物または権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡すことを約したものと推定されます。使用貸借でいえば、貸主は、貸す物を貸すものとして特定した時の状態で引き渡す約束をしたものと推定される、ということです。無償で貸している以上、貸主が「新品同様に整備した状態で貸す」とまで約束したとは当然には言えない、という考え方です。

ただし、これは貸主が一切責任を負わないという意味ではありません。貸主が、危険な不具合を知っていながら告げずに貸し、借主や第三者が損害を受けたといった場面で、貸主がどのような責任を負うかは、使用貸借の条文に特別な定めが置かれていないため、債務不履行や不法行為の一般的な規定で判断される余地があります。実務では、書面に「貸主が把握している不具合」を書き、「借主は現状のまま借りる」旨を確認する形が、貸主にも借主にも分かりやすい書き方です。車の貸し借りでの整備・保険の確認は友人・家族に車を貸す・借りるで扱います。

傷・汚れ・附属物:収去と原状回復の範囲

民法599条は、使用貸借が終わったときの借主の義務を、三つの項に分けて定めています。1項は、借主が、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合に、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去(取り外すこと)する義務を負う、というものです。ただし、借用物から分離できない物や、分離するのに過分の費用を要する物は除かれます。2項は、借主が附属させた物を収去する権利を持つこと、3項は、借主が、借用物を受け取った後に生じた損傷がある場合に、使用貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う、というものです。ただし、その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるときは、この義務はありません。

賃貸借の原状回復の規定(民法621条)には、「通常の使用および収益によって生じた賃借物の損耗ならびに賃借物の経年変化を除く」という括弧書きが付いています。これに対して、使用貸借の599条3項には、同じ括弧書きがありません。そのため、通常の使い方で生じた劣化まで、借主が直すのかどうかは、条文だけでは割り切りにくい部分が残ります。無償で貸している以上、通常の使い方で生じた摩耗まで借主が負担するのは重すぎるという見方もあれば、条文にはそう書かれていないという見方もあり得ます。争いを避けるには、書面で、通常の使い方による損耗・経年変化は含めない、または含める、と決めておくのが有力な方法です。

書き方の例(一般的な例) 傷や汚れの扱いの書き方の例

原状回復

よくある書き方借主は、返還のとき、物を原状に復して返す。
整えた書き方借主は、返還のとき、貸す時に作成した目録・写真の状態に戻す。通常の使い方による損耗と経年変化は、借主の負担としない(または、借主の負担とする)。

理由原状とは何の状態か、通常の損耗を含めるかが、人によって違って理解されやすい。基準の資料と範囲を書く。

附属させた物

よくある書き方改造・取り付けは禁止する。
整えた書き方貸主の書面の承諾を得て取り付けた物は、返すときに借主が取り外し、取り外した跡の補修は借主が行う。貸主が残すことを承諾した物は、残して返す。費用の精算はしない(または、精算する)。

理由取り付けた物の扱いを、民法599条1項・2項の枠内で、具体的に決める。分離できない物の扱いも書く。

修理

よくある書き方壊れたときは、借主の費用で直す。
整えた書き方通常の使い方で生じた故障は、貸主と借主が協議して負担を決める。借主の用法違反による破損は、借主が修理する。いずれも、修理の前に見積りを貸主に示す。

理由費用の負担者を、壊れた原因で分ける。事前に見積りを示す手続を入れて、勝手な修理の請求を防ぐ。

取り付けた物が、取り外せなくなるほど一体になったときの所有権の問題もあります。民法242条は、不動産の所有者が、その不動産に従として付合した物の所有権を取得し、ただし権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない、と定めます。民法243条は、所有者を異にする動産が付合して損傷しなければ分離できなくなったときは、合成物の所有権は主たる動産の所有者に帰属する、と定めます。借主が取り付けた部品や設備が、貸した物と一体になって取り外せなくなった場合、その物の所有権が貸主の側に移ってしまうことが起こり得ます。そのとき借主は、有益費の償還を求められるかが問題になります(前の節)。借主にとっても貸主にとっても、取り付けの前に、書面で扱いを決めるのが、一番安全です。

請求の期間は、返還から1年:民法600条の読み方

民法600条1項は、契約の本旨に反する使用または収益によって生じた損害の賠償と、借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない、と定めます。貸主の損害賠償請求と、借主の費用償還請求の、両方に及ぶ期間制限です。同条2項は、損害賠償の請求権について、貸主が返還を受けた時から一年を経過するまでの間は、時効は完成しない、としています。

つまり、貸主は、物が返ってきたら、一年以内に、使い方の違反で生じた損害を請求しなければならず、借主は、一年以内に、支出した費用の償還を請求しなければなりません。普通の債権の消滅時効(民法166条1項。権利を行使できることを知った時から五年間など)とは別に、より短い期間が置かれている点が特徴です。短い期間が置かれているのは、貸し借りの終了後、時間がたつほど、使用による傷なのか、返却後に生じた傷なのかが、分からなくなるからだと考えられます。

返還の日を起点とする請求の期間

  1. 返還の日(起算点)貸主が物の返還を受けた日。この日を、書面で確認しておく。
  2. 返還直後貸主は、状態を確認し、傷や不具合を見つけたら、写真と日付を残して、借主に伝える。借主は、支出した費用の資料(領収書)をまとめる。
  3. 返還から一年以内貸主は、用法違反による損害の賠償を、借主に請求する。借主は、支出した費用の償還を、貸主に請求する。請求の方法と日付が分かる形(書面、メッセージ)を残す。
  4. 一年を経過した後民法600条1項の期間を過ぎる。その後に請求が認められるかは、請求の内容と事情で判断が分かれ得る。

この一年は、使い方に起因する損害と、借主が支出した費用に関する期間です。貸した物を返してくれない場合や、返還が遅れた場合の請求とは別に考える必要があります(返却の確認と、返してくれないとき)。

請求の期間内にやるべきことは、単に「言った」ことではなく、「請求した」ことを、後から示せるようにしておくことです。口頭で「直してほしい」と言ったのか、金額を示して請求したのか、メッセージでいつ送ったのか。この点を残しておくことで、期間内に請求したと主張しやすくなります。なお、一年以内に請求したとしても、相手が応じない場合に、どのような手続があるのかは、このページでは扱いません。

子どもや家族が壊したとき、又貸しした先で壊れたとき

借りた物を使うのは、借主本人とは限りません。借主の子どもが遊んで壊した、同居の家族が使っていて傷をつけた、借主が友人に又貸しして壊された、という場面は、よくあります。

場面別:誰が責任を問われるか、書面に残す項目

子ども

起きがちなこと借主の子どもが壊した。子どもが幼いと、本人は責任を負えないことがある(民法712条)。その場合、子どもを監督する法的な義務を負う者が、責任を負うことがある(民法714条1項)。

書面に残す項目子どもが使うことの可否、子どもが使うときの付き添い。

同居の家族

起きがちなこと借主と同居する家族が使うこと自体が、「第三者に使わせた」(民法594条2項)に当たるのかは、物の性質と貸した目的による。

書面に残す項目使ってよい人の範囲(借主本人のみ、同居の家族まで、など)。

友人・又貸し

起きがちなこと借主が貸主の承諾なく友人に使わせると、貸主は契約を解除できる(民法594条2項・3項)。友人が壊した場合、借主は、返せなかった責任を問われ得る。

書面に残す項目第三者への貸し出しの禁止、承諾の手続、承諾した場合の責任。

来客・同行者

起きがちなこと家や土地を借りている間の来客がつけた傷も、借主の管理の範囲として問題になる。

書面に残す項目来客の宿泊や長期滞在の可否、来客が壊した場合の扱い。

借主が自分の管理のもとで家族や友人に使わせた場合、借主自身が、約束どおりに返せなかったとして、貸主から責任を問われ得ます。他方、子どもが第三者に損害を与えた場合の責任(民法712条、714条)は、貸し借りとは別の話で、借りた物を使って他人にケガをさせたといった場面で問題になります。

使う人の範囲は、「借主本人」「借主の同居の家族」といった形で、書面に具体的に書いておくのが、最も有効です。貸す物の性質によっては、特定の人にしか使わせたくない(楽器、高価な機材、車など)ことがあるので、貸すときに、使える人を明記しておきます。

書面に書く条項の考え方:費用と損害の約束を整える

ここまでの内容を、書面に落とし込むときの考え方をまとめます。費用と損害の条項は、数が多くなりがちですが、次の五つの問いに答えていれば、骨組みとしては十分です。

費用と損害の条項に入れる項目

  • 通常の必要費の範囲の目安と、借主が負担する費用の名目(無償の境目で触れた実費の扱いと整合させる)。
  • 修理・工事が必要になったときの手順(事前の連絡、見積り、承諾、上限額、緊急時の扱い)。
  • 貸主が把握している不具合と、現状のまま借りる旨の確認。
  • 用法違反と、借主の責めに帰することができない損傷の区別。保険(誰が入るか、証券の確認)。
  • 返すときの状態の基準(目録・写真)、通常の損耗・経年変化の扱い、附属させた物の取り外し。
  • 使える人の範囲、第三者への貸し出しの禁止、承諾した場合の責任。
  • 損害や費用の請求の期間(民法600条の一年)を意識した、返還の日と状態の確認書。

書き方の例(一般的な例) 損害の条項の整え方の例

損害の責任

よくある書き方借主は、借りた物を壊した場合、全額弁償する。
整えた書き方借主は、借りた物を用法に従わない使い方で壊したときは、修理費または時価のうち低い方を限度に賠償する。通常の使い方で生じた故障、災害による損傷は、借主の責任としない。

理由全額弁償は、原因を問わず重く、争いの出発点になる。原因と上限を書くと現実的になる。

費用の請求

よくある書き方費用は、後日精算する。
整えた書き方費用の精算は、返還の日から○日以内に、領収書を添えて請求する。この期間を過ぎても、法律上の請求期間(民法600条)を妨げない。

理由精算の手続と期間を決める。法定の期間より短くしすぎない。

保険

よくある書き方借主は、保険に加入するものとする。
整えた書き方借主は、○○の補償を含む保険に加入し、保険証券の写しを貸主に渡す。保険金が支払われる場合の受取人と、自己負担部分の負担者を書く。

理由誰が何の保険に入るかを、証券で確かめる。免責額の負担も決める。

起きがちなこと:費用と損害のすれ違い

費用・損害でよく見られるすれ違い(一般的な傾向)

  • 借主が貸主に連絡せず大きな修理をして、返すときに全額の償還を求め、貸主が「頼んでいない」と拒んだ。
  • 貸した物に傷があったが、貸すときの写真がなく、貸す前からの傷か、借りている間の傷か分からなかった。
  • 原状回復の義務を書いたが、通常の使い方による劣化も含むのかが決まっておらず、返却のときに食い違った。
  • 借主が取り付けた設備が取り外せなくなり、貸主のものになるのか、費用の償還が必要なのかで争いになった。
  • 子どもや来客が壊したが、使える人の範囲が決まっておらず、責任の線引きが分からなかった。
  • 返還から一年を過ぎてから傷に気づいて請求し、請求の期間をめぐって食い違った。
  • 壊れた物の修理費が、物の価値を大きく上回っていたため、全額の請求が通らなかった。
  • 貸主が危険な不具合を知っていたのに告げずに貸し、借主が困った。

費用と損害のすれ違いは、貸すときの記録と、返すときの確認の二つがあれば、かなりの部分を防げます。返却の確認書の作り方は返却の確認と、返してくれないときで、すでに揉めている場合の整理は個人間の貸し借りでトラブルになったとき・よくある質問で扱っています。

よくあるご質問

借りた物が壊れたら、修理代は借主が払うのですか。

借主が負担するのは、通常の必要費(日常の維持費や小さな修理)です(民法595条1項)。用法に従わない使い方や、注意を怠って壊した場合は、損害賠償を求められ得ます(民法415条1項)。他方、借主の責めに帰することができない事由による損傷は、原状回復義務や賠償責任の対象外です(民法599条3項ただし書、415条1項ただし書)。原因を分けて、書面で費用の負担を決めておくのが現実的です。

貸した物に傷があった場合、いつまでに請求すればよいですか。

契約の本旨に反する使用・収益によって生じた損害の賠償は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければなりません(民法600条1項)。この間は、損害賠償請求権の時効が完成しません(同条2項)。返還を受けた日を、確認書などで残しておき、傷に気づいたら、写真と日付を残して、早めに借主へ伝えるのが基本です。

借りた家に、自分の費用で設備を取り付けました。返すときに費用を請求できますか。

借りた後に附属させた物は、使用貸借が終了したとき、借主が取り外す義務を負い(民法599条1項)、また取り外す権利も持ちます(同条2項)。分離できない物や、分離に過分の費用を要する物は別です。価値を高めるための費用は、有益費として、価格の増加が現存する場合に限り、貸主の選択で、支出額か増加額の償還を求め得ます(民法595条2項、196条2項)。請求は、返還から一年以内です(民法600条1項)。取り付ける前に、貸主の承諾と扱いを書面で決めておくことが大切です。

子どもが借りた物を壊した場合、親が弁償しなければなりませんか。

子どもの年齢と能力によって、子ども自身が責任を負えない場合があります(民法712条)。その場合、監督する法的な義務を負う者が責任を負うことがあります(民法714条1項)。また、親が借主であれば、借りた物を約束どおりに返せなかったことについて、借主として責任を問われる可能性があります。子どもが使えるかどうか、使うときの付き添いを、貸すときに決めておくと争いを避けやすくなります。

貸す前から壊れかけていた物を貸して、借主がケガをした場合、貸主に責任はありますか。

民法596条が準用する民法551条1項により、貸主は、貸す物を特定した時の状態で引き渡すことを約したものと推定されます。ただし、貸主が危険な不具合を知りながら告げなかった場合などの責任は、使用貸借に特別の定めがなく、債務不履行や不法行為の一般的な規定で判断される余地があります。貸主が把握している不具合を書面に書き、借主が確認しておくことが、双方の備えになります。

あわせて読みたいページ

本ページは一般的な情報提供です。個別の貸し借りへの当てはめは、貸す物や場所、当事者の関係、合意の内容によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の当事者や取引を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 法務省 / 国土交通省 / 裁判所

アトラス行政書士法人|毎日5組限定契約書・利用規約の無料チェックお手元の書類の問題点を、行政書士が詳しく指摘します。1書類につき24時間以内に回答・お1人様3種類まで無料チェックの詳細を見る›

ご依頼の前に:対応の内容

詳しい内容を見る

個人間の貸し借りの契約書・覚書でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

公式LINEで無料相談する
アトラス行政書士法人 公式LINEの友だち追加QRコード
  1. 公式LINEを友だち追加
  2. 「個人間の貸し借りの契約書ガイドを見た」とメッセージを送信
  3. ご相談内容を確認し、LINEでご返信します(365日・深夜や休祭日も通常対応)

相談無料です。料金が発生するのは、お申込みいただいた書類の作成・点検だけです。

LINEで友だち追加して無料相談する

申込フォーム・お電話でもご相談いただけます。

ご依頼・納品の流れを見る