使用貸借契約書の書き方:当事者・貸す物の特定・書面の形式

契約書の役目は、条項を並べることではありません。貸す物と相手を特定し、終わり方を決め、貸したときの状態を残す。この三つが書かれていれば、争いになりやすい主な点は押さえやすくなります。

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LINEで貸す約束をしたあと、貸主が気を変えたら。共有名義の物を一人の判断で貸していたら。書面の形で結論が変わります。

このページの要点

  • 使用貸借は、貸す約束と無償で使って返す約束が合えば成立する(民法593条)。成立に書面は要らない(民法522条2項)。
  • 書面で貸す約束をすると、貸主は、借主が物を受け取る前でも一方的には解除できない(民法593条の2)。
  • 当事者の欄は、持ち主から逆算して書く。共有なら全員、代理人なら代理権、18歳未満なら法定代理人の同意を確かめる。
  • 貸す物は、型番・製造番号、車台番号、部屋番号、地番など取り違えようのない情報で特定し、付属品と貸したときの状態を残す。

結論:契約書は「貸す物」「相手」「終わり方」を、後から誰が読んでも同じに読めるようにするために作る

家族や友人に物や場所を貸すとき、多くの人は「貸すよ」「ありがとう、助かる」というやり取りだけで始めます。それで貸し借りは成り立ちます。ところが、貸している途中で事情が変わったとき、返してもらうときに傷が見つかったとき、貸した人か借りた人のどちらかが亡くなったときに、「何を」「誰と誰が」「いつまで」「どんな約束で」貸したのかが人によって違って記憶されていると、話し合いの出発点が定まりません。

使用貸借契約書(無償で貸し借りする約束の書面)の役目は、難しい条項を並べることではありません。貸す物と当事者を特定し、終わり方を決め、貸したときの状態を残す。この三つが書かれていれば、細かな条項が足りなくても、争いになりやすい主な点は押さえやすくなります。このページの要点は、次のとおりです。

  • 使用貸借は、貸主が物を引き渡すと約し、借主が無償で使用・収益して契約が終わったら返すと約することで成立する(民法593条)。成立に書面は要らない(民法522条2項)。契約書でも覚書でもメッセージでも、合意の中身が同じなら、成立の点では差がない。
  • 差が出るのは、貸主が気を変えたときと、後から内容を示すときである。書面で貸す約束をした場合、貸主は、借主が物を受け取る前でも一方的には解除できない(民法593条の2)。書面がなければ、借主が受け取るまでは貸主が解除できる。
  • 当事者の欄は、物の持ち主が誰かから逆算して書く。共有の物は共有者全員を貸主に並べ、代理人が貸すときは代理権を示し、未成年者が当事者のときは法定代理人の同意を確かめる。
  • 貸す物は、型番・製造番号、車台番号、部屋番号、土地の地番といった「他の物と取り違えようのない情報」で特定し、付属品・鍵・貸したときの傷や汚れも書面か別紙に残す。
  • 期間と終わり方、費用の分担、傷がついたときの扱いは、このガイドの別のページで条文ごとに掘り下げている。ここでは、それらを契約書のどこに置くかという骨組みだけを扱う。

金銭の貸し借りと、事業者が個人に貸すレンタル、事業用の不動産の賃貸借は、このガイドの対象ではありません。対象は、個人どうしが物・車・部屋・土地を無償または名目的な負担で貸し借りする場面です。無償か有償かの境目は「無料で貸す」の境目で、全体の地図は個人間の貸し借りの全体像で整理しています。

契約書・覚書・メッセージ:どの形でも成立するが、効果と示しやすさが違う

民法522条2項は、契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない、と定めています。使用貸借について書面を要求する規定はありません(ただし、後で見る593条の2のように、書面の有無で効果が分かれる場面はあります)。ですから、LINEで「しばらく貸すよ」「ありがとう」と交わしただけでも、物の貸し借りの合意は成立し得ます。

もう一つ押さえておきたいのは、現在の民法では、使用貸借が「物を受け取った時」に成立するのではなく、貸す約束と無償で使って返す約束が合った時に成立する形になっていることです。民法593条は、貸主が物を引き渡すことを約し、借主が受け取った物を無償で使用・収益して、契約が終了したときに返すことを約することで効力が生じる、と書いています。つまり、まだ物を渡していない段階でも、貸す約束は成立しています。そこで、約束だけして気が変わった貸主はどうなるのか、という問題が出てきます。民法593条の2が、これに答えています。

条文民法

  • 522条2項契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面などの方式は要らない。
  • 593条使用貸借は、貸す約束と、無償で使って契約終了時に返す約束が合ったときに成立する。
  • 593条の2貸主は、借主が借用物を受け取るまでは契約を解除できる。ただし、書面による使用貸借は除く。
  • 596条贈与者の引渡義務等を定めた551条を、使用貸借に準用する。貸主は、貸す物を、貸す物として特定した時の状態で引き渡す約束をしたものと推定される。

条文は趣旨を要約したものです。引用や適用の際は、e-Gov法令検索で最新の原文を確認してください。

書面にしたかどうかで、貸主の「やっぱりやめた」が変わる

貸す約束をしたあと、物を渡す前に、貸主が気を変えたら?

  • 貸す約束を書面でした
    貸主から一方的には解除できない書面による使用貸借には、民法593条の2本文の解除(借主が受け取るまでの解除)が働かない。約束を取りやめるには、借主の合意を得るなどの別の根拠が要る。
  • 貸す約束を口頭・書面なしでした
    借主が受け取るまでは貸主が解除できる物を引き渡して借主が受け取った後は、この解除はできない。ただし、その後は期間や目的に応じた終了・解除の規定(民法597条・598条)が働く。

約束だけで物を渡していない段階の話です。物を渡した後の終わらせ方は、貸す期間と「返して」のときで扱います。

ここで「書面」とは何かが気になります。593条の2の条文は、「書面による使用貸借」と書くだけで、題名が契約書であることや、署名押印があることを要件にしていません。貸す物、無償で貸すこと、返すことが読み取れる文書であれば、書面と見られる可能性は高いでしょう。他方、民法446条3項のように、電磁的記録(メールやデータで残した内容)を書面とみなすと明文で定めている条文があるのに対して、593条の2には、そうした定めは置かれていません。メッセージのやり取りだけで「書面による使用貸借」と言えるかは、はっきりしない部分が残ります。後で争いになりやすい取引(高価な物、長い期間、人に貸す約束を取りやめたくなりそうな事情がある場合)では、署名した紙の書面、または、全文が一つのファイルにまとまったデータに署名・確認を残す形をおすすめします。

貸し借りの合意を残す形の比べ方

契約書覚書メッセージ・メール口頭だけ
合意の内容を示せるか条項に沿って全部を書ける要点だけに絞って書けるやり取りが散らばり、結論がどれか分かりにくい記憶に頼るため示しにくい
当事者が誰かを示せるか住所・氏名・署名で示せる住所・氏名・署名で示せる表示名や電話番号に頼ることになる示すものがない
593条の2の「書面」当たると見られる当たると見られるはっきりしない当たらない
後から変更を重ねたとき変更の覚書で追記できる追加の覚書を重ねるどれが最新か不明になりやすい内容の食い違いが起きやすい

上の表は、一般的な傾向を整理したものです。個々のやり取りが「書面」に当たるかどうかは、中身と事情によって異なります。

書面に署名や押印があると、法律上の意味が一つ加わります。民事訴訟法228条4項は、私文書は、本人またはその代理人の署名または押印があるときは、真正に成立したものと推定する、と定めています。つまり、署名か押印のどちらかがあれば、その人が書いた文書だと一応推定されます。「推定」ですから、覆せないわけではありませんが、少なくとも、誰が作った文書かが最初から争いになる事態は減ります。実印や印鑑証明書がなくても、署名があれば足ります。一方、メッセージは、表示名と電話番号に頼ることになるので、本人が書いたという点から確かめなければならなくなる場合があります。

当事者の書き方:持ち主は誰か、全員が書面に出ているか、代理人や未成年者はいないか

貸主の欄は、「貸す人」ではなく「その物を貸す権限のある人」を書くのが基本です。物を貸す約束は、持ち主でない人とも成立し得ますが、後で持ち主が現れて返還を求めたとき、借主は困ります。契約書を作る前に、次の点を確かめておくと、後の食い違いを減らせます。

確認の問いと理由当事者の欄を書く前の確認

  1. その物の持ち主は、本当に貸そうとしている本人か。

    車なら車検証の所有者欄、部屋や土地なら登記事項証明書の所有者欄、機材なら購入時の領収書や保証書が手がかりになる。家族名義の物を、名義人でない家族が貸そうとする場面は、特に食い違いが起きやすい。

  2. 購入代金の支払が終わっていない物ではないか。

    ローンやクレジットで買った物は、支払の契約の側で、他人に貸すことを制限していることがある。貸す前に、購入時の契約書面を確かめておく。

  3. 持ち主が複数いないか。

    共有の物は、共有者全員を貸主として並べ、全員が署名するのが最も安全である。理由は次の節で述べる。

  4. 貸す手続を、代理人に任せていないか。

    代理人が貸すときは、代理人であることと、誰の代理人かを書面に書く。本人の署名のある委任状の写しを添えると、後で争いになりにくい。

  5. 借主や貸主に、18歳未満の人はいないか。

    未成年者が契約をするには、原則として法定代理人(通常は親権者)の同意が要る(民法5条1項)。同意のない契約は取り消すことができる(同条2項)。

共有の物は、共有者全員を貸主にする

複数人が持ち分を持っている物(共有物)を貸すときは、誰が貸す権限を持つのかが問題になります。民法249条は、各共有者が共有物の全部について、持ち分に応じた使用ができると定め、同条3項は、共有物の使用に善良な管理者の注意を求めています。共有物の管理に関する事項は、持ち分の価格の過半数で決める(民法252条1項)のが原則です。

ただし、共有者が過半数で決められる範囲には限りがあります。民法252条4項は、共有者が、共有物に、賃借権その他の使用および収益を目的とする権利で、一定の期間を超えないものを設定できる、と定めています。期間の上限は、樹木の栽植・伐採を目的とする山林が十年、それ以外の土地が五年、建物が三年、動産が六か月です。この条項の文言が使用貸借で借主に与える権利にも及ぶのか、その期間をどう数えるのかは、条文の文言だけでは割り切れない部分があります。そのため、共有の物を長く貸すときは、共有者全員が貸主として署名する形にするのが、実務上、最も無理のない書き方です。共有者の一部の同意しか得ていない場合は、その点が後で争点になり得ます。

代理人が貸す、親が子の物を貸す

代理人がその権限の範囲内で、本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接に効力を生じます(民法99条1項)。逆に、代理権のない人が他人の代理人として契約をしても、本人が追認しなければ、本人には効力が生じません(民法113条1項)。親が子の物を貸す、子が高齢の親の物を貸す、といった場面で、代理権があることが書面にも示されていないと、あとで持ち主が「そんな約束は知らない」と言い出したとき、借主が守られません。契約書には、「貸主 ○○(代理人 ○○)」のように、代理人の表示と、委任状の写しを付ける旨を書いておきます。

未成年者が絡む場合、民法5条1項は、未成年者が法律行為をするには法定代理人の同意が要るとしつつ、単に権利を得、または義務を免れる法律行為は除いています。使用貸借の借主には、返還する義務や、物を善良な管理者の注意で扱う義務が生じるので、無償だから「単に権利を得る」だけだと言い切れるかは微妙です。迷う場合は、親権者の同意があることを書面に残しておけば、取り消されるおそれを小さくできます。なお、民法4条により、18歳をもって成年とされています。

貸す物の特定:取り違えようのない情報と、貸したときの状態を残す

「カメラを貸した」「実家の部屋を貸している」という言い方では、どの物をどこまで貸したのかが決まりません。同じ型番のカメラは複数あり、同じ家の中でも、貸した部屋とそうでない部屋があります。特定とは、「他の物ではなく、この物」と言える情報を書面に載せることです。

貸す物の種類ごとの、特定に使う情報と手がかり

貸す物書面に載せる情報確かめる手がかり
機材・工具・家電など品名、メーカー、型番、製造番号(シリアル)、色、目立つ傷や欠け購入時の保証書、箱、取扱説明書、領収書
車・バイク車種、登録番号、車台番号、色、貸す時点の走行距離、燃料の残り自動車検査証(車検証)、自賠責保険証、任意保険証券
部屋・家建物の所在、建物名、部屋番号、貸す範囲(バルコニー、物置、専用の駐輪スペースなど)、付属の設備登記事項証明書、売買や相続の際の書類、管理組合の資料
土地所在、地番、地目、貸す範囲を示す図(目印となる境界、杭、フェンスなど)登記事項証明書、地図や測量図、現地の写真

付属品の扱いも、特定の一部です。民法87条は、物の所有者が、その物の常用に供するため自己の所有する他の物を附属させたときは、その附属させた物を従物とし、従物は主物の処分に従う、と定めています。主な物を貸せば、その付属品も一緒に貸す、というのが自然な理解ですが、「箱と充電器は貸さない」「予備の鍵は貸主が持つ」という取り決めがあるなら、書かない限り、後から食い違います。付属品、鍵の本数、取扱説明書まで、目録にして別紙で添付する書き方が、実務でよく見られます。

場面別:特定でつまずきやすい点と、書面に残す項目

物

起きがちなこと似た型番の物が複数あって、返ってきた物が貸した物と同じかどうか分からなくなる。

書面に残す項目製造番号、付属品の目録、貸すときの写真と日付。

車

起きがちなこと誰名義の車か、誰が保険の対象かが整理されないまま貸される。

書面に残す項目登録番号、車台番号、所有者、保険の運転者の範囲。

部屋

起きがちなこと貸した範囲に、納戸・ベランダ・駐輪場などが含まれるのかが曖昧になる。

書面に残す項目貸す範囲を図面または写真で示す、含まれない場所を書く。

土地

起きがちなこと貸した範囲と、境界・通路の使い方が人によって違って記憶される。

書面に残す項目範囲を図で示す、出入りの方法、杭や柵の位置。

車の貸し借りでの免許・保険・事故の確認は友人・家族に車を貸す・借りるで、部屋と建物は部屋・実家・空き家を無償で貸すで扱います。

貸したときの状態の記録も、特定の延長にあります。民法596条は、贈与者の引渡義務に関する551条を使用貸借に準用しており、貸主は貸す物を、特定した時の状態で引き渡す約束をしたものと推定されます。反対に言えば、貸主が引き渡した時の状態がどうだったかを、書面や写真が示せなければ、後から「その傷は貸した時からあった」「いや、返す時についた傷だ」という食い違いが起きます。引渡しの日に、貸主と借主が一緒に、写真を撮り、気づいた傷や不具合を書き留める。この手間が、返却のときに最も効きます。返却の確認の取り方は返却の確認と、返してくれないときで述べています。

契約書の骨組み:項目を、どの条に置くか

契約書は、条項が多いほど安心というものではありません。身近な人どうしの使用貸借であれば、十数項目で骨組みはつくれます。次のリストは、書面にそろえておきたい項目を、順に並べたものです。期間と終わり方、費用と損害、死亡・売却といった論点は、それぞれ別のページで掘り下げていますので、ここでは「契約書のどこに置くか」だけを示します。

使用貸借契約書に入れる項目

  • 題名と作成日(作成日と、実際に貸し始める日は別に書く)。
  • 貸主・借主の住所・氏名・連絡先(共有なら共有者全員、代理人がいるなら代理人の表示も)。
  • 貸す物の表示と、付属品・鍵の目録(別紙にしてよい)。
  • 貸し始める日と、引渡しの方法、引渡し時の状態の記録の方法。
  • 無償で貸すこと、賃料は請求しないこと。借主が負担する費用がある場合は、その名目と範囲(詳しくは無償の境目)。
  • 使う目的と、使い方の決まり(居住のみ、個人の撮影用のみ、運転者は本人のみ、など)。
  • 期間、または使う目的。更新の有無と方法(詳しくは貸す期間と「返して」のとき)。
  • 禁止事項(第三者に使わせること、貸し出し・譲渡、改造や追加の取り付けなど)。
  • 費用の分担、壊れたときの扱い、保険(詳しくは貸し借りの費用と、壊れた・汚れたとき)。
  • 返還の時期・場所・方法と、返すときの状態の確認。
  • 契約が終わる場合(期間満了、解除、合意での終了)と、貸主・借主が亡くなったときの扱い(詳しくは貸主・借主が亡くなったとき)。
  • 貸した物や家を貸主が売るなどして持ち主が変わる場合の扱い(詳しくは貸した物・家が売られたとき)。
  • 契約書の変更は書面で行うこと、各自が一部ずつ持つこと、署名。

項目の並べ方より重要なのは、各項目が同じ言葉で書かれていることです。たとえば、「貸す物」を「本物件」「対象物」「当該機材」と、条によって別の言い方で書くと、別の物を指すように読めてしまうことがあります。最初に出てくる箇所で、「貸す物(以下「本物件」といいます。)」のように言い換えを決め、その後はその言葉だけで通します。

書き方の例(一般的な例) 契約書の書き方を整えるときの例

当事者の表示

よくある書き方甲(貸主)と乙(借主)は、次のとおり合意する。(住所・連絡先がない)
整えた書き方貸主 ○○(住所・連絡先)、借主 ○○(住所・連絡先)と並べ、貸主が複数のときは全員を書いて全員が署名する。

理由連絡の手段がないと、返還の催促も契約の変更も、相手に届いたかどうかが分からない。貸主の一部の署名しかないと、他の共有者の意思が後で争点になる。

貸す物の表示

よくある書き方甲は乙に、甲所有のカメラを貸す。
整えた書き方品名・型番・製造番号と、付属品の一覧、貸すときの状態(写真と日付)を別紙で示す。

理由同じ型番の物は複数あり、付属品の扱いも人によって記憶が違う。取り違えようのない情報を載せる。

無償であること

よくある書き方甲は乙に、無償で貸す。
整えた書き方賃料は請求しない。ただし、乙は次の費用を負担する、と範囲を書く。

理由無償と書きながら実費を取ると、契約の型が不明になる。範囲を明らかにして、一貫させる。

返還

よくある書き方期間満了時に返却する。
整えた書き方返還の日・場所・方法を書き、返すときに、貸主と借主が一緒に状態を確認して、確認書に署名する。

理由返す側と受け取る側の状態の認識が合っているかを、その場で確かめる仕組みを入れておく。

契約書の題名は、「使用貸借契約書」「物品貸与契約書」「貸借に関する覚書」など、何でも構いません。題名ではなく、中身が実態に合っているかが大事です。たとえば、題名が使用貸借でも、実際には毎月まとまった金額を受け取っているなら、賃貸借と評価され得ます(「無料で貸す」の境目)。

作成から保管まで:署名、控え、訂正のしかた

契約書を作る流れと、その段階で残しておきたいものを、時系列に並べると次のようになります。

貸す前から返すときまでに、書面で残すもの

  1. 貸す前持ち主の確認(車検証・登記事項証明書・領収書)、購入時の契約、保険の内容、貸す範囲。
  2. 契約書の作成当事者の表示、貸す物の特定、期間、費用、禁止事項、返還。内容を読み合わせてから署名する。
  3. 引渡しの日貸す物の状態の写真、気づいた傷、付属品と鍵の本数、メーターの数値。貸主と借主が一緒に確認し、日付を入れる。
  4. 貸している間期間の延長、費用の精算、使い方の変更は、メッセージで終わらせず、短い覚書にして署名する。連絡先の変更は書面で知らせる。
  5. 返すとき返却の日と状態、未精算の費用、以後の請求の有無を書いた確認書に、両者が署名する。

貸し借りが終わった後も、請求できる期間が過ぎるまでは、契約書・目録・写真・確認書を保管します(請求期間は費用と損害のページで説明しています)。

署名の仕方にも、小さな決まりがあります。署名は本人が自分の手で書くのが基本で、他人が代わりに書いたときは、その人が代理人として書いたことを、署名欄の表示(「貸主 ○○ 代理人 ○○」など)で分かるようにします。契約書が複数のページにわたるときは、ページの綴じ目に両者がサインをする、またはページ番号を振って「全○ページ」と書いておくと、ページの差し替えを疑われにくくなります。契約書を二通作って各自が一通ずつ持つか、同じ内容を写して各自が持ちます。訂正が出たときは、二重線で消し、訂正した箇所の近くに署名します。修正液やテープで消すのは避けます。

電子的に契約を結ぶ場合も、基本は同じです。全文が一つのファイルにまとまっていること、両者が同じファイルを持っていること、いつ誰が確認したかが残ることを確かめます。メッセージアプリのトーク画面を何枚も撮影しただけでは、全体の流れが把握しにくく、どれが最終合意か分からなくなりがちです。

起きがちなこと:契約書があるのに、争いが起きる場面

書面を作っても食い違いが起きやすい場面(一般的な傾向)

  • 貸主の署名欄に、共有者の一部しかおらず、後で他の共有者が「聞いていない」と言い出した。
  • 貸す物の欄に「カメラ一式」とだけ書いたため、レンズや予備バッテリーが含まれるかどうかで食い違った。
  • 契約書の日付と、引渡しの日が同じ日として扱われ、実際の貸し始めがいつなのか、期間がいつからか決まらなかった。
  • 代理人が署名したが、代理権が書面にも委任状にも示されておらず、持ち主が追認しなかった。
  • 契約書の題名は使用貸借だが、毎月の支払の名目が曖昧で、賃貸借か使用貸借かが争いになった。
  • 期間の延長をメッセージで済ませたため、延長の期間が、貸主と借主で違って理解されていた。
  • 契約書をなくした、または、一方しか持っていなかったために、内容を示せなかった。
  • 返却のときに状態を確認せず、後日、傷を理由に請求したが、貸した時からあったのか判断できなかった。

どれも、契約書の作り込みよりも、「誰が」「何を」「いつから」「どの状態で」貸したのかを残せていたかどうかの問題です。すでに揉めている場合は個人間の貸し借りでトラブルになったとき・よくある質問で、集めておく記録と確認の順番をまとめています。

よくあるご質問

LINEのやり取りだけで、貸し借りの約束は有効ですか。

貸す約束と、使い終わったら返す約束が合っていれば、メッセージだけでも使用貸借は成立し得ます(民法522条2項、593条)。ただし、書面による使用貸借には、借主が受け取る前の貸主の解除を制限する規定(民法593条の2)があり、メッセージがここでいう書面に当たるかははっきりしません。高価な物や長い期間の貸し借りでは、署名した書面か、全文を一つにまとめたデータで残しておく方が、後で示しやすくなります。

共有名義の物を、共有者の一人だけの判断で貸してよいですか。

共有物の管理は持ち分の価格の過半数で決めるのが原則です(民法252条1項)。ただし、使用および収益を目的とする権利を設定できる期間には上限が置かれており(同条4項)、使用貸借の借主の権利にどこまで当てはまるかは条文だけでは割り切れない部分があります。そのため、特に長く貸す場合は、共有者全員を貸主として並べ、全員が署名する形が、後の争いを避けやすい書き方です。

未成年の子に物を貸す、または未成年の人から借りるときは、何に気をつければよいですか。

18歳未満の人が契約をするには、原則として法定代理人の同意が必要で、同意のない契約は取り消すことができます(民法5条1項・2項)。使用貸借の借主には返還の義務や注意して扱う義務が生じるため、親権者の同意があることを書面に書いておくと、後で取り消される不安を小さくできます。なお、民法4条により、18歳で成年とされています。

契約書の題名を「覚書」にした場合も、使用貸借契約書と同じ効力がありますか。

契約の成立は、題名ではなく中身で判断されます。貸す物、無償であること、使用の期間や目的、返すことが書かれていれば、題名が覚書でも使用貸借の合意として扱われます。逆に、題名が使用貸借でも、実態として賃料にあたる支払が続いていれば賃貸借と評価され得ます。題名よりも、中身が実態に合っているかを確かめてください。

貸す約束を書面にした後で、貸すのをやめたくなったらどうなりますか。

書面で貸す約束をした場合、貸主は、借主が物を受け取る前でも、民法593条の2の解除はできません。取りやめるには、借主の合意を得るのが基本になります。書面がなければ、借主が受け取るまでは貸主が解除できます。物を渡した後は、期間や目的に応じた終了・解除の規定(民法597条・598条)が働きます。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の貸し借りへの当てはめは、貸す物や場所、当事者の関係、合意の内容によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の当事者や取引を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 法務省 / 国土交通省 / 裁判所

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